対談No.17 鈴なり

対談:REAL

はじめに

島田:厨房業界とは異なる業種の方と対談する『REAL』。第17回となる今回は、2005年に「鈴なり」を開店、旬の豊かな食材を使い、斬新なアイデアを駆使した日本料理を提供されている、店主・村田さんとお話しさせていただきます。本日はよろしくお願いします。

村田:よろしくお願いします。

料理人への道

島田:料理人を目指した経緯について教えてください。

村田:元々母親の実家がふぐ料理屋を営んでおり、子どもの頃から他の仕事や進学を考えるのではなく、料理の道に進み、将来はこのお店を継ぐんだという気持ちがありました。
高校3年生の頃、祖父がふぐ連盟という料理組合に所属しており、その会合で『なだ万』の当時の総料理長と席が隣になったそうです。そこで若い人材を探しているという話になり、祖父が「孫がいるよ」という流れで話を進めてくれて、面接を受けたらその場で採用されました。

修行

島田:高校を卒業してすぐ修行に入られたんですか。

村田:そうです。18歳から31歳で独立するまでの13年間修業していました。

島田:修行は何が1番大変でしたか。

村田:ネギをたくさん切るとか、大根をすりおろす等の手伝いはしたことがありましたが、今までまともに包丁も握ったことがなく、調理師学校も出ていないので、技術もなにもない状態からスタートでした。それでも料理ができないこと自体は大変ではなく、人間関係という修行とは別のコミュニケーション面が1番大変でした。
これまで人から指示を受ける経験がなかったので、「これやって」とか、「なんでやってないの」といったことを言われることに抵抗感がありました。ですが、その気持ちを原動力に変えてもっと仕事頑張ろうという気持ちになりました。
何十年と長い時間修行を積む中で、技術を身につけるだけでなく、周囲の人々に可愛がられたり、気を遣うことを覚えたことで、物事を円滑に進める術を学びました。精神的にも大人になれたと思います。

評価

島田:料理の世界での評価基準は何だと思いますか。料理のセンスがいいとかおいしいとか様々考えられますが。

村田:若い時は従事している料理長が気に入っている味を真似できないと評価されません。完全に真似することができることで、自分の評価も上がるし、周囲からも認められて、次の段階に進むことができます。
真似するというのは、何かを拭く、綺麗に魚をおろす、刺身を綺麗に引くといった1つ1つの技術を修行を重ね身に着けていくことです。また知識も身に着けるために、人に聞いたり先輩の作り方を真似たり、本を読んだりしました。

島田:なるほどですね。人や本といった様々な角度から技術や知識を学ばれたんですね。

独立

島田:修行後はご実家のお店ではなく独立されたんですね。

村田:そうですね。ふぐ料理屋は母親の弟が継ぐ形になりました。最初は修行を10年ほどと考えていたのですが、それでは全く足りず、結局13年続けました。ただ12年目くらいになると、今度は下の子の管理等、料理と違うことをしないといけなくなってきて、最終的に独立を決めました。

島田:独立を決めたとき自信はありましたか。

村田:自信はありませんでした。これまで完璧な職人肌の方が独立しても、数年で店を畳んでしまうのを何度も見てきました。そこで、あえて完璧になる前に独立しようと決めました。
独立した後も、お店を居酒屋にするのか大皿料理を並べるようなカジュアルなお店にするのか、来てくれたお客さんの声も聞きながら試行錯誤していきました。なので、今のお店はお客さんに育てられたと言ってもいいかもしれません。

今後の目標

島田:今後の目標はありますか。

村田:将来的な計画というのは常に変わると思っているので、かっちりと決めているものはありません。ただ、息子も今料理人になり、うちの店で働いています。将来お店を継いでいけるように、料理や人とのつながりをしっかりと伝えていきたいと思っています。自分の全てを教えたいと思っていますが、最終的に続けるかどうかは本人次第なんで、どうなるかは分かりませんけどね。
また、自分はこのまま1人前にはならないと思っていますが、それでも1人前を目指しながら努力して一生料理を作り続けていきたいなと思っています。

島田:そうですね。世の中続けてみないと分からないことだらけですからね。本日は貴重なお時間をいただきありがとうございました。

村田:こちらこそありがとうございました。

■鈴なり ホームページ
https://suzunari-arakicho.com/

プロフィール

村田 明彦(むらた あきひこ)
1974年8月25日生まれ
高校卒業後、老舗日本料理店「なだ万」に入社。13年間の修行。
2005年「鈴なり」開店。旬の豊かな食材を使い、斬新なアイデアを駆使した日本料理。
2012年に初めてミシュランの1つ星を獲得。以降7年連続で獲得。
2015年にはミラノ万博に和食の料理人として参加。
農水省「和食給食応援団」のメンバー。

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