Vol.8 有限会社岡富商店 代表取締役 岡田昌一郎

輝く場所におじゃまします

まじめに魚に一直線

美味しい干物で人気の岡富商店さんへ訪問して美味しさの秘訣やこだわりをお伺いしました。最近では干物もネット通販で簡単にお取り寄せできるので、気軽に美味しい干物が食べられるありがたい世の中ですが、その一方で美味しい干物を届ける為に、たくさんのプロたちが真剣に魚に向き合い、食べる人のことを一番に考えてくれていたのだということを忘れていたと気づかされました。今回の記事を読むと、きっと美味しい干物が“今すぐ”食べたくなりますよ〜。

空腹の皆様、要注意!

歴史

昭和25年創業、今年で72年目になります。
祖父が1代目で創業し、私は3代目として去年就任しました。
このあたり(島根県大田市久手町)は港町・漁師町なので、魚は買うというより、とってくるものという考えの家も多かった中、新鮮な魚をリヤカーに乗せ周辺の家へ訪問販売したのが始まりです。
リヤカーの販売で多くの方に喜んで頂けていたこともあり、店舗を持って販売するようになりましたが、鮮魚の販売だけでは経営が厳しい面もありました。そこで始めたのが“ふぐのみりん干し”などの常温販売可能な加工品の製造、販売です。
2代目の父の代になった頃には、ヤマト運輸がクール便を取り扱うようになり、本格的に干物の製造を始めました。県外に出た人から頂いていた「どうしても地元の魚が食べたい」という声にも応えられるようになり、より岡富商店の魚を楽しんで頂けるようになりました。

通信販売

ネットでの販売を始めたのは17〜18年前です。
始めた頃は今のようにネットで魚を買うということがメジャーではありませんでした。水産加工の業界としてもネット通販を始めたのは早い方だと思います。
通販を始める前は、手頃な価格で干物としてもニーズの高かったカレイやあじなどの加工をメインとしていましたが、全国発送ができるようになってからは、“あかもの”と呼ばれる、のどぐろや甘鯛などの高級魚を干物にすることで贈答品としての商品開発にシフトしていきました。
ネット通販は写真でどれだけ伝えられるかが大切なので、写真もこだわっています。干物は身の方を表面で見せるところが多いんですが、岡富商店では皮の面を写真に撮っています。お祝い事にピッタリな綺麗な赤色を見てもらうことができます。

3代目

もともと違う仕事をしていましたが、8年ほど前から岡富商店に入り去年から3代目として代表に就任しました。
なんとなくではありますが、いずれは会社を“継ぐ”という意識はずっと持っていました。進学先や就職先は、将来自分が3代目として商売をやるとなった時に意味のあることを考えて選択してきました。
水産業界はまだまだ閉鎖的な業界なので、業界の形にどっぷりはまってしまうと変に身動きが取れなくなってしまうこともあると思います。
父からも継ぐか継がないかは別として、違う畑で様々な経験を積むのも良いと勧めてもらえたこともあり、他の業種を経験できたのは良かったです。
業種、業界を超えて良いところはどんどん取り入れて、今ある岡富商店の良さは残しながら、柔軟に変化できる会社でいようと思っています。

一日漁

岡富商店で加工している魚は“一日漁”の魚です。
底引網漁の場合、大きな船で1週間ほど漁に出て大量の魚をまとめて港に持って帰りますが、その場合1週間前に獲った魚も昨日獲れた魚も混ざった状態で一緒に水揚げされます。
“一日漁”の場合早朝に漁へ出て、その日のうちに水揚げされた新鮮な魚ばかりなので、鮮度が全く違います。干物の味も鮮度がとても重要なんです。
今では全国でも数箇所しかない貴重な“一日漁”の極上の魚で一夜干しをつくっています。

仕入れ

朝4時に起き、中央市場の“せり”に行きます。一般的に水産加工業者は鮮魚卸さんから仕入れをする場合が多いのですが、岡富商店では直接市場のせりで買い付けています。せりは売り手も買い手もプロの集まりなので、その中でどれだけいい魚を買い付けられるかも勝負です。
買い付けた魚は市場から10分ほどのとこにある自社工場ですぐに加工に回します。貴重な一日漁の新鮮な魚を限りなく新鮮なまま加工できることが岡富商店だから出せる干物の旨みにつながっています。

一夜干し

魚の食べ方はやっぱり干物になっている方がより美味しい、一番美味しいと思っています。
一夜干しは読んで字のごとく、魚を一晩干すという意味ですが、最近はほとんどの会社で干す前の魚を漬ける塩水濃度を高くすることで、加工時間を短縮し、効率化を進めています。加工時間が短くなることでたくさん加工できるので、そういった方法が主流になっているのですが、塩水濃度を高め、加工の時間を短縮すると、味が均一にならなかったり、塩辛かったりします。
岡富商店の一夜干しはマイナーなつくり方ですが、魚を海水と同じくらいの薄さの塩水に一晩かけてじっくり漬けてから、やっと干す過程にうつるのでとても時間がかかるし、場所もとるような加工方法です。
でも、味が違います。食べてもらったお客さんには「今まで食べた干物と違う!これは生干物だね」と言われたことがあります。魚の旨みを引き出し美味しさにこだわるとこのつくり方になるので、この方法は変えずにこれからも続けていきたいと思っています。

魚の需要

家で干物を焼いて食べる人は少なくなってきていますよね。需要はゼロにはならないと思っていますが、年々減ってきていると感じています。
週末回転寿司に行けば並んでいますし、魚は好きなんだと思いますが食べやすさ、気軽さという点で、家で焼く干物はハードルが高いのかもしれないですね。
干物って頭があったり、骨があったり、焼くのもめんどくさいかもしれないですが、私は結局そういう食べ方が一番美味しいと思っているので、本当に美味しい干物に出会ってもらえるきっかけづくりをしていきたいです。
本当に美味しい魚を知ってもらえる入口になる商品、岡富商店ファンになるきっかけ商品などの商品作りにも力を入れています。 手軽に食べられるような加工品でもまず1回、岡富商店の魚を食べてもらえる間口を広げて、次はこれ、次はこれとリピートしてもらいたいです。

商品開発

30代〜50代の女性をターゲットに考えています。でも干物ってどちらかというと、若い女性は手にとりにくいと思われている部分もあって、その中でどうしたら、商品を届けられるかなと考えた時に、実際にターゲットとしている女性たちにパッケージも名前も考えてもらおうってことで、商品名やパッケージを決めてもらったりしています。「天女の羽衣」「ナポレオンの帽子」「プリンセスのドレス」など珍しい商品名もたくさんあります。

プロの仕事

干物を作るのは、職人仕事で、技術や知識、経験が必要です。
魚の種類や大きさ、身の硬さ、あぶらのりなど季節によってもさばき方、加工方法、時間などすべて調整していかないと本当に美味しい干物は作れません。
8年前に岡富商店へ入り、実際の加工を見て本当にプロの仕事だなと実感しました。
私には加工の技術や知識も無いと思っているので、だからこそ、誰でもできる仕事はしなくていいように、プロにしかできない仕事に専念できる環境づくりをしたいと思っています。

一番のおすすめだと教えてもらった“甘鯛の一夜干し”を食べてみました。

高級魚として有名な甘鯛に、天日塩以外の添加物は一切加えず無添加の手間を惜しまずつくられた一夜干しです。

白身魚ですが脂が奥深い味わいで、頭や皮まで美味しい。塩辛くないのに口一杯に広がる贅沢な旨みでごはんが止まりません。

そのままで食べ続けたい気持ちをなんとか抑えながら、最後はほぐした身と大葉をごはんに乗せてお茶漬けにしてみました。もちろん美味しいの一言につきる。

珍しい穴子の一夜干しも絶品だったのでおすすめです。そのまま焼いてわさびでどうぞ〜。

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