はじめに
島田:厨房業界とは異なる業種の方と対談する『REAL』。第9回となる今回は、私の出身地でもある島根県に本店を構える、山陰合同銀行の広島西支店長多久和さんとお話しさせていただきます。本日はよろしくお願いします。
多久和:こちらこそよろしくお願いします。
きっかけ
島田:多久和さんはなぜ山陰合同銀行へ入行されたのですか。
多久和:大学が東京だったので、両親は東京で就職するものだと思っていたようですが、自分自身は地元に戻りたいという思いがありました。そんな中、祖父が銀行に勤めていたので、自分も銀行員になれるんじゃないかと軽い気持ちで考えたのがきっかけです。
もうひとつは、高校時代の部活動の先輩が山陰合同銀行に入行していたので、一緒に仕事ができるかもしれないと思ったからです。
島田:入行する前とした後で想像と違った事などありましたか。
多久和:元々どうしても銀行員になりたいという気持ちで入行した訳ではないので、良いことも悪いことも理不尽に思えるような事があったとしても、気がついていなかったかもしれません。ただ周りの人たちが一生懸命仕事されているので迷惑をかけないよう必死に仕事をしていました。ですので、特に想像と違った事はありませんでした。
座右の銘
島田:座右の銘が『なぜベストを尽くさないのか』だと以前お聞きしましたが、なぜこの言葉を選んだのですか。
多久和:自分は弱いところがたくさんあるので、物事に対してベストなパフォーマンスを発揮する為に、常に自分に問いかけたり、何かを課すという意味で、座右の銘にしました。
職業人として、仕事に対しては常に真摯でありたいと思っており、どんな小さな案件でも大きな案件でも、お客様に対して常に自分の持っているものを全て提供すること、ベストを尽くすことが大切だと考えております。
島田:なるほどですね。ベストを尽くす中で、失敗をしてしまったことはありますか。
多久和:新入行員の頃は失敗が多かったです。「一生懸命やっているのにお客様が理解してくれない」といった自分の物差しだけで考え、お客様から𠮟責を受けたことがあります。その自分の失敗を上司が裏でお客様へフォローしていたということを、全て終わった後に知りました。
そういった反省もあり、自分の物差しだけでなくお客様がどういう風に捉えているのかと考える必要があると痛感しました。
島田:現在支店長というかつての上司の立場になってから部下の人たちに対して何か思うところはありますか。
多久和:様々な仕事に対して目標を持って挑んでほしいですね。組織としてはお客様のために最善を尽くす必要がありますが、全員が成長できるように、仕事ができる行員には可能な限りフォローに回ってもらいながら、経験が少ない若い行員が積極的に挑戦でき、成長できる環境をつくりたいと考えております。
地方銀行の役回り
島田:多久和さんが思う地方銀行の目指すものはなんですか。
多久和:地方銀行は今後、営業基盤の人口減少や高齢化などが予想されます。お客様へ最善のサービスを提供するためには、収益をあげ健全な銀行であり続ける必要があります。このため、弊行は山陽地区をはじめ関西圏というマーケットが大きなエリアへ営業エリアを拡げ、成長を続けて参りました。
地元山陰では預金と貸金ともに高いシェアを確保しておりますが、山陰両県以外のエリアでは挑戦者です。山陰両県以外の営業エリアにおいては、地元のメインバンクがいる中で同じ立場を目指す形となるので、他行との違いを前面に出した活動を行う必要があります。お客様の多岐にわたる課題・ニーズに対応するための専門的な知識やノウハウを行員が身に付け、地域やお客様のお声にしっかりと耳を傾けることで差別化を実現していくことが重要と考えております。
地方銀行を取り巻く環境は厳しく、従来の常識には捉われない組織を目指し、常に新しいアイデアや柔軟な発想を取り入れていく必要があります。当行の経営理念には「創造的なベストバンク」というフレーズがあり、こうした新たな発想を常に取り入れていくのは当行の行風でもあり、当行の強みだと思っております。
島田:顧客獲得にもユニークな発想で大手に対応できたらいいと思いますね。
イノベーション
島田:資金が少ない中小企業でのイノベーションはどういった取り組みをしていますか。
多久和:資金が少ない中でも事業を継続し成長をさせたいという意欲のあるお客様については、我々が持っている知見だけではなく、外部の専門家の方と一緒になって事業に関与をしております。
昨今、コロナ禍で多くのお客様が大きな痛手を受けられました。資本主義の観点では、全てのお客様を銀行がお支えすることは正解ではないかもしれません。しかし、事業継続に強い意欲を持ち、成長の可能性があるお客様に対しては、あらゆる手段を使ってお支えすることが我々の使命であると思っております。
島田:企業に対しても、お金を貸したから好転したというわけではなくて、好転するために結果的にお金を貸したという風なロジックが必要だと思います。
多久和:そうですね。お客様をお支えするためにも、銀行自体が健全であり持続的に成長していく必要があると思います。健全な銀行であり続けることで、厳しい状況のお客様に対しても、例えば事業計画を行員が作ったり、事業計画を実現するための実行支援を行うなど、資金繰りだけではなく、本業をいい方向に持っていくお手伝いができますからね。
貸す想い
島田:融資をする中で感じる想い、やりがいはありますか。
多久和:融資をしたいと思うお客様はたくさんおられます。我々山陰合同銀行に少しでも魅力を感じていただき、他の銀行との違いを評価いただけるお客様に出会えた時は本当にありがたいです。我々の融資によって事業が成長し発展してもらえることは本当に銀行員冥利に尽きますね。
島田:実際に融資を断った事はありますか。
多久和:残念ながらそういったケースがない訳ではありません。審査に最低限必要な情報が得られない場合などはご期待に沿うことができない場合もございます。そういったことをなくすために日ごろからお客様とのリレーションを深める必要があります。財務諸表のみで判断するのではなく、事業の仕組みや成長性、実権者の方のお考えなどを十分に理解したうえでご融資をさせていただけなければならないと考えております。
見るポイント
島田:数字以外に相手の見ているポイントはありますか。
多久和:事務所の雰囲気など確認することはあります。個人的に確認してしまうのは、話しをしていて余裕があるかどうかなどもポイントとしています。あくまで個人的な経験上の話ではありますが、大体傾向は一致していると感じます。
島田:なるほどですね。それでは、数字上ではどこをポイントに見ていますか。
多久和:基本的なことですが、業歴に対して純資産がどれだけ積み上がっているのか、損益計算書でキャッシュフローがどのぐらい出ているのか、というところでしょうか。このほかにもキャッシュの水準なども参考にしています。
いろいろなポイントはありますが、単年度の業績のみで判断するのではなく、過去の決算からの連続性を踏まえて総合的に判断することが大切だと考えております。
島田:私もいろんな企業さんの決算書を見せてもらったことがあるのですが、今お聞きしたポイントは重要なことだと思いました。本日は貴重なお話しをありがとうございました。
多久和:こちらこそありがとうございました。
プロフィール
多久和 宏明(タクワ ヒロアキ)
島根県松江市出身。
座右の銘は「なぜベストを尽くさないのか」。
島根県松江市に本店を構え、山陰両県を基盤としながら、山陽、兵庫、大阪、東京にも拠点を構え、2022年9月末時点では預金残高5兆円、貸出残高4兆円規模の広域地方銀行である山陰合同銀行広島西支店の支店長を務める。