公益社団法人日本馬術連盟理事長 橋本 茂×株式会社フロムシステムダイレクト相談役 島田 克己
島田:厨房業界とは異なる業種の方と対談する『REAL』。第五回となる今回は公益財団法人日本馬術連盟、そして一般社団法人全日本学生馬術連盟で理事長の橋本さんとお話しをさせていただきます。本日はよろしくお願いします。
橋本:こちらこそよろしくお願いします。
馬に関する業界
島田:馬に関わる業界はどのようになっていますか。
橋本:日本の馬業界は海外とは異なります。日本は、農林水産省がトップにあり、JRAが競馬業界を中心に畜産業界や馬術業界など全体的に携わっています。
海外では、馬術業界がトップにあり、そこに競馬業界などが含まれている形となっています。
島田:日本と海外では競馬業界と馬術業界の関係が逆なんですか。
橋本:そうです。日本は特に競馬業界が盛んで、生産・育成・出場・引退といった馬のライフサイクルに準じた形で数多くの組織が存在しています。組織の一つに日本馬術連盟や全国乗馬倶楽部振興協会があり、オリンピックの種目にもあった馬術は日本馬術連盟が携わっていました。
馬と人間の歴史
島田:馬と人間の歴史は古くからありますよね。
橋本:古くは富国強兵の為、軍馬を中心に発展してきました。皇室や国の為に馬を強くしたり、乗り手の技術向上を目指す上で競馬や馬術が発展していきました。
他にも流鏑馬や神社に葦毛を奉納するといった催事もあり、日本の風土になじんだ形でパートナー的な存在でもあったんだと思います。
現代では、ホースセラピーといった馬を活用したメンタルケアを行ったりもしています。
島田:パートナー的な存在から競技として発展していくのにはどういった経緯がありますか。
橋本:馬術でいうと、日本は軍の中で乗り手の技術向上を目指す中で発展していきましたが、海外だとキツネ狩りが原点だと思います。そこからヨーロッパの騎馬隊のトレーニングの一環で演技をする中で馬術へ発展していったと思います。
島田:イメージ的に中国の方がより歴史が古いイメージがありますよね。
橋本:中国は平原を長時間走るのに特化した馬なので現代の馬術にはあっていないんです。また競馬も出来ない法律があるので、競技としての馬はあまり発展していないです。
島田:なるほど、競技の馬とは別の種類ということなんですか。
橋本:そうです。日本は競馬が中心なので走ることに特化したサラブレッドが主ですが、ヨーロッパ等馬術が中心の国は身体が大きくジャンプ力のあるウェストファーレンといった乗馬用の馬が主になっています。
馬との出会い
島田:橋本さんはどのように馬にのめり込んでいったんですか。
橋本:スタートは競馬でした。中学校3年生ぐらいの時から競馬の血統とかに興味を持っていました。当時、ハイセイコーという人気の馬がいて、父親とたまに一緒に競馬を見ていました。
そんな中、実際に東京競馬場に連れていってもらってレースを生で見たんですけど、馬の直線の加速がすごく迫力があって、そこからさらに馬に興味を持つようになりました。ハイセイコーが引退した後は、北海道まで見に行ったりしました。
馬術に転換したのは大学生の時馬術部に入部してからです。最初は入部すると競馬場でアルバイトできると聞いたからでしたけど、色んな方とお話しをさせてもらったりしながらずっと続けているうちにのめり込んでいました。
島田:大学を出て就職された後、馬とはどういう形で関わっていたんですか。
橋本:競馬は馬券買うくらいで、馬術も卒業してから近隣の乗馬クラブに顔を出すぐらいでした。あるとき大学で馬術の指導者になる話になり、色々運営しているうちに今に至ります。
馬術界
島田:今馬術部がある大学はどれくらいありますか。
橋本:馬術部は現在80校程あります。乗馬部とか乗馬クラブという形で活動しているのを含めると3倍ぐらいあると思います。
島田:コロナ禍によって部員数に変化はありましたか。
橋本:実はコロナ禍によって大学に入学できてもリモートで、なかなか大学の敷地内に入ることが減っていた学生が、交流の場を求めて馬の世話が必要で敷地内に入る機会が多い馬術部に入部して、結果的に部員数は増えてきています。
あとは乗馬クラブと連携したり、グリーンチャンネル(JRAのオフィシャル放送)で試合を放映・ドキュメンタリーを制作して馬術部のある大学数を増やしてさらに学生が入部しやすい環境を整えております。
島田:プロモーション方法として、クラウドファンディングやYouTubeとかもいいかと思いますよ。日本だけでなく海外からの支援の可能性もありそうです。
橋本:クラウドファンディングは考えたことありますが、実行まではなかなかできていないです。ある大学が馬の世話が出来なくなってしまいますと発信したら約2,500万円集まったそうですが、こういったテーマの発信で集めてもマイナスのインパクトが強くて印象が悪いような気がしたんです。
島田:真実はいっぱいありますが、事実は1つです。確かにメッセージの発信の中には色んな真実があるかもしれませんが、約2,500万円集まったという事実が1つあるだけです。
こんな時代だからこそ、100円でもいいことをしたいと思う人って意外といると思います。そう考えたときに、今後の発展に必要なプロモーションの1つとしてクラウドファンディングはいいと思いますよ。
馬術部の魅力
島田:馬術部の魅力はなんですか。
橋本:先程のホースセラピーに少し近いですが、馬術部では初乗り会といって、近隣の方々や親御さんを呼んで馬に乗せて歩く「引き馬」をしたりします。その際親御さんから、自分の子と最近話す機会も減ってきていたけど久々に話すことができましたと仰って頂いたりしました。馬という動物を通じて壁を取り払うことができるんです。
また、馬術はお金がそれなりにかかるスポーツでもあるので、馬に乗るためにお金を稼ぎ、施設を維持させるといった学生自身が経営計画を自然に立てて運営していきます。一生懸命考えることで学生のうちに社会人として非常に面白い人材が育っていくと思います。
学生の将来
島田:馬に関わっている学生に対して将来どうなってほしいという思いがありますか。
橋本:馬術は男女分け隔てなく同じ土俵で競いあっています。その為団体の場合、女性がキャプテンで男性が構成メンバーになったり、もちろんその逆もあったりと、男女混合で性別を乗り越えた形で行動しています。これが今話題のSDGsの5番目「ジェンダー平等を実現しよう」に繋がっていき、将来的に平等社会の実現に貢献していってほしいと思っています。
島田:今からの時代にマッチする競技だと思います。
馬術をスポーツとして捉えたときに、プロといった道はありますか。
橋本:日本ではまだ賞金のシステムが出来上がっていないので、基本的には乗馬クラブのインストラクターになる人がいます。海外では障害馬術大会の賞金が2,000万円出たり、馬の売買とかも盛んなので、乗馬としての産業が成立しています。
日本でもスポンサーがいて賞金があるプロのような大会を開催できるようにするのが日本馬術連盟の今後のテーマでもあります。
島田:本日は馬について興味深いお話しをお聞き出来ました。ありがとうございました。
橋本:こちらこそありがとうございました。
プロフィール
橋本 茂(はしもと しげる)
1958年生まれ。「焦らず、怒らず、開き直らず」を胸に行動する。上手く行かないと”焦り”、焦ると上手く行かないので自分自身に”怒り”、そして最後に”開き直り”すべてを投げ出さないよう誡めるために。学生馬術界の大学生には、”学生の可能性は無限”という言葉を信じて接する。